滋賀県立大学工学部 材料化学科 金属材料分野

研究のあらすじ

はじめに

個性としての欠陥

人それぞれに長所(強み)と短所(弱みや欠点)があります.それらが総じて個性になるのでしょう.
時に長所は短所になり,その逆も然り.
ジキルとハイド,虎杖と呪霊・宿儺カフカと怪獣
物語やアニメにはしばしば二面性をもつ(二者共存の)主人公が登場します.
人がもつ二面性は甲乙つけがたい表裏一体のものです.

金属や酸化物などの無機物質には「格子欠陥」と呼ばれる,文字通りの欠陥が含まれます.
教科書で学ぶような整然と原子が並ぶ「完全な」結晶に対して,完全性を乱すものが欠陥です.
現実の物質には多かれ少なかれ宿命的に「欠陥」が含まれます.
格子欠陥は長所にも短所にもなります.
それらの個性を認めて理解してうまく付き合う
先人たちはそうやって材料の性能を引き出す努力をしてきました.

物質から材料へ

「転位」とよばれる線状の欠陥を増幅すれば金属は硬くなり,
「結晶粒界」とよばれる面状の欠陥を増やせば金属はやはり硬くなり,
「原子空孔」とよばれる点状の欠陥を増やすと酸化物の電気伝導性が著しく増幅する.
「異種元素」を添加すれば金属は硬くなり,多様な合金に姿を変え,
「異種元素」を添加すれば本質的に絶縁体的なシリコンが伝導性を帯びる.

ある金属に異種の元素を添加する.
よそからやってきた異物ですから欠陥とみなせます.
それを「合金元素」と呼びます.
異物としての合金元素は思わぬ変化をもたらす.
自分と異なる他者と接することにより価値観を揺さぶられ視野が広がり世界が開ける.
人間や社会とそっくりです.

「物質」の個性を知ってうまく引き出せば世の中で活躍する「材料」に生まれ変わる.
伝統的な金属の材料開発の考え方は今も昔も変わることはありません.

個性を知り材料開発を支える

無機材料の格子欠陥はナノメートルからミクロメートルの寸法です.
金属材料分野では

鉄鋼磁性合金,二次電池の電極素材,パワー半導体強誘電酸化物などを相手にし
電子やX線などを探索子として金属,半導体そして酸化物のナノ・ミクロの顔を直接観察し
格子欠陥を介して原子やイオンや電子が動く速さを計測し

材料の変幻自在な個性を引き出すための研究をしています.

地味な研究かも・・・いや地味な研究なり

↑に記した原子やイオンが動く速さは拡散係数と呼ばれます.
拡散係数の評価も,電気伝導性の測定も,相転移の研究も世間的には地味な研究の部類です.
用語そのものが難しいし,動く実体を直接見られない.
短時間で皆さんの興味を引くことは難しいというかできない.
YoutubeやTikTokの瞬発性がウケるご時勢ではなかなかつらい…
たしかに土俵としての研究のお題は地味です.

大学生の皆さんに土俵を提供するのは大学教員の役割.
そこで何かを見出すのは皆さんご自身.
楽しさは他者から与えられるものではありません.
地味な研究に真剣に楽しく向き合い,意義を認識し,自ら得た結果に価値を与えて命を吹き込む.
目の前の研究テーマに脇目も降らずに取り組めば,

・対峙する物質の個性を引き出す「道具の扱い」を習得し(手段を習得)
・道具(武器)を駆使して相手との向き合い方を考え(戦略的思考の練習)
・物質のある側面を知る理解者となる(専門性の獲得)

そんな活動を経て領域展開する場が『金属材料分野』です.
誇張に誇張を重ねて書きましたが,こんなことを思って皆さんと研究を進めます.

対象とする物質材料は多彩なり

周期表に並ぶ元素の組み合わせで物質材料は構成されます.
天然にも人工的にも多彩な物質材料がある.
欲張って多彩な物質材料に接したいと素朴に思う.
研究内容は地味だけど,自分と仲間の研究を通じて多彩な物質材料の世界を知れます.

金属 編

  鉄鋼

強度が要求される自動車ボディの素材
自動車のモーターになる電磁石
 

融点が低く奇妙な素性をもつ半金属
電子部材を助ける
二次電池の電極素材としての可能性あり
  鉄と錫の合金 スピントロニクス薄膜材料

酸化物 編

  ハフニウム酸化物 +
ジルコニウム酸化物
電荷を蓄える能力が超高い薄膜材料
  酸化ガリウム 超過酷な環境下での電力供給や変換に必要な半導体
  リチウム酸化物+
金属酸化物
リチウムイオン電池の電極材料

半導体 編

  ゲルマニウムと錫の混合体 次世代の電子デバイス&光デバイス
  窒化ガリウム 超過酷な環境下での電力供給や変換に必要な半導体

研究手段

物質に電子やX線やイオンのビームを照射すると物質側が敏感に応答します.
そのシグナルを検知して料理すると物質の内なる姿を知れるのです.
本学の先達のおかげで,材料研究に必須の分析機器は整備されています.
他大学でそのほかの特殊な設備もお借りしながら研究します.

・電子を探索役として(走査型透過型の電子顕微鏡)
  物質の原子配列(結晶構造)と不均一性,元素分布を知る / ナノからミクロのスケール

・X線を探索役として(X線ディフラクトメター
  物質の原子配列(結晶構造)を精密に定める / 10分の1ナノからナノのスケール

・イオンビームを探索役として(二次イオン質量分析器
  物質の中の元素の分布(濃度)を測定する / ナノからミクロのスケール
  電子やX線が苦手とする水素やリチウムのお相手も得意

・そのほか色々

番外編

巨人の肩の上に立つ

進撃の巨人』の話ではありません.Google Scholarのほうです.
学術研究のみならず,世の中のありとあらゆることは先人達の営みを継承して成り立つものです.
「オリジナルなものは何もない.組み合わせだけがオリジナルを保障する」
ゲンロン12』 で鹿島茂さんが紹介した言葉です.
鹿島さんは米国シリコンバレーにおけるGAFA誕生の興味深い解釈を与えました.

古往今来,人間の考えることは似たようなもの.
すべてが新しくて初めてのものなどそうあるものじゃない.
誰かが誰かの作品なり発見から影響を受けて次のものが生まれる.
新しい価値は既存の知見や技術の組み合わせによっていくらでも誕生する可能性がある.

鹿島さんの言葉を色々に受け取れます.
先人達の営みへ敬意を払い科学技術の現在地を確かめる.
日進月歩の技術を組み合わせて,彼らには観ることができなかった新しい世界が観える.
それがまた次世代の皆さんの足場を作る…
歴史の歩みの中にいることを実感しながら,進撃の巨人の肩に乗って肩の力を抜いて研究しましょう!

日々の研究活動

あれこれ書くまでもありません.
スラムダンク名言集がバイブルになります.
人生というか物事への向き合い方が網羅されています.
さしあたり 15位の2 と 11位の1 あたりを忘れずにいたいですね.
6位のようなことを言う人もいると楽しい.
研究活動は往々にして苦しいものです.そんなときは 第1位 の言葉を思い出す.

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